処分保留で釈放。ここまで騒いでいたのは何なのだ。ー追記あり

無罪の推定(presumption of innocence)はどこに?で取り上げた事件の容疑者が釈放され、不起訴になる模様だ。

各報道機関による地検の説明は以下の通り。
「女性と6人の間で示談が成立し、告訴を取り下げた」(毎日)
「処罰感情が緩んでおり、起訴する必要がない」と判断した。(読売)
「同日、被害者が告訴を取り消すとともに、6人との間で示談が成立した」(時事)
「被害女性との間で示談が成立し、女性が告訴を取り下げたため」(朝日)
「捜査によって、大学の調査では困難だった真相解明と示談につながった。強制捜査に問題はなかった」(毎日)
「示談の動きがなければ公判請求する方針だったので、強制捜査に問題はなかった。むしろ捜査で事実を解明したことで、示談という双方に良い形で終結できたと思う」(読売)
「事実関係を捜査したことが示談につながった」(朝日)
強制捜査に問題はなかった。学内での解決はあり得ず、捜査により(示談という)きちんとした決着をみた」(産経)

捜査関係者の説明。
「弁護人が先週末、女性側に示談を打診。告訴取り下げを条件に示談が成立したという。集団準強姦罪は告訴がなくても起訴できるが、地検は女性に処罰感情がないことから起訴の必要性がないと判断した。」(毎日)
地検によると、同日付で、6人と女子大生との示談が成立。女子大生が被害届を取り下げた。集団準強姦は親告罪ではないため立件は可能だが、地検は起訴する必要がなくなったと判断した。(産経)

大学学長の談話。
「加害学生の猛省を促すと共に被害学生の修学保障に万全を期し、再発防止に取り組む」(毎日)
「今回の不祥事を厳粛に受け止め、関係者に深くおわび申し上げる。二度とこのような不祥事を招かないよう、学生指導のあり方を早急に見直し、再発防止の方策に真摯(しんし)に取り組んでいく」(読売)
「加害学生の行為は学生の本分にもとるものと認識し、猛省を促す。学生指導のあり方を早急に見直す」
現在、無期停学としている6人の処分をどうするかについては、今後検討するという。
「教員には通常以上の高い倫理観や道徳観、人権感覚が求められる」として、全学生に特別講義の受講などを義務づけるという。(朝日)

報道機関の見解。
 近く6人を不起訴処分(起訴猶予)とする見通し。(毎日・朝日・読売)
今週中にも不起訴処分にする方針。(産経)
 6人側の弁護人が19日に示談を持ちかけ、22日に女性側が同意、同日付で告訴を取り消したという。集団準強姦罪は被害者の告訴が必要な親告罪ではないが、地検は、示談によって被害者が法廷で証言することが困難になったと判断したとみられる。(朝日)


起訴猶予という言い訳

毎日・朝日・読売・産経の各社が不起訴処分になると予測している。起訴猶予と括弧付きで記述しているから、おそらくは検察に言質があったのだろう。
日本の刑事訴訟法は公訴権を持つ検察官に広い裁量権を与えている。検察のさじ加減ひとつということもありえるのだ。
起訴猶予とされるなら、嫌疑があり刑の免除の事由がないにも関わらず、検察官の判断で起訴の必要無しと判断したものになる。「今回は大目に見てやる」ということだ。しかし、実際には「示談によって被害者が法廷で証言することが困難になった」とした朝日の見解が不起訴の理由ではないだろうか。被害者の証言がなければ公判を維持できないと判断したわけである。
そうだとしたら、この事件はそもそも被疑事実が罪にならないものだったか、犯罪の嫌疑が認められないか、不十分である場合に該当する不起訴処分である可能性が残される。被疑者にしてみれば納得がいかないことかも知れない。
ただし、いずれにしても「無罪の推定」にあたることになる。

示談が成立したことから有罪推定をする人がいるかもしれないが、これまでの判例から、裁判が被害者の証言を重要視する傾向があり、検察が立件した事件の99%に有罪判決が出ることなどを考慮した現実的な取引だろう。容疑を認めたことにはあたらない。

さて、おそらく不起訴になることが決まった事件であるが、相変わらず言い訳がましく「捜査によって、大学の調査では困難だった真相解明と示談につながった。強制捜査に問題はなかった」(毎日)などという検察官の言い訳を当初の報道姿勢の正当性にしているようだ。
確かに逮捕が示談につながったことは間違いないだろう。しかし、真相解明がどこまで為されているか明らかではない。
準強姦は親告罪ではなく、強姦罪よりも重い有期懲役刑である。起訴猶予は公訴権の濫用ともとれるだろう。



結局この事件は集団準強姦の容疑事実を断定的に実名報道されたままで闇の葬られることになるだろう。
示談金の額はわからないが、女性側に金銭が授与されたことで法益は果たされたと考えるのなら、裁判所ってどういう意味があるんだろ。
いずれにしても、マスメディアの報道姿勢がおかしいことはますます明らかになった。


大学側の談話は世論迎合
当初の発表では準強姦ではなく公然わいせつで処分したんだろう。公然わいせつなら加害者も被害者もいない。
世間に叩かれて筋の通らない説明になってしまっている。
大学は論理の社会だ。
世論に迎合してぶれる必要はない。



追記:代わり映えのない人権意識

TBS 大学ラグビー部員暴行容疑事件 人権侵害報道

1997年にこの事件と似た事件が都内で起き、示談成立後不起訴処分になっていた。
その後事件に関与したとされる学生とその家族が実名報道したTBSを「放送と人権等権利に関する委員会機構」に人権侵害と申し立てた。
委員会の結論と措置は以下に示したとおりである。

本件は、大学ラグビー部員による集団レイプ容疑事件であって、社会的影響も重大であるから、その報道には公共性、公益性が認められる。
TBSの本件報道における基本的な事実関係は、警察発表に基づいたものであり、事実誤認があったとはいえない。本委員会は、TBSの報道の一部に適切でない表現があったものの、実名、顔写真の使用に配慮が見られるなど、全体的に見れば申立人の名誉を毀損するものではなく、放送倫理上も特に問題はなかったと判断する。
しかしながら、今後の事件報道に当たっては、逮捕されただけで犯人と思いがちな一般視聴者に対し、誤解や誤った印象を与えないためにも、タイトルやサブタイトル等の字幕に、出来る限り「容疑」、「疑い」といった文字を入れると同時に、番組全体を通じて、未だ容疑段階であることを明確にする姿勢が求められる。
また、一方的な報道や犯人視的な報道に陥らないためには、警察発表に依存せざるを得ない第一報段階では無理としても、事件捜査の推移に従い、事件関係者や弁護士等に可能な限りの取材を試み、その言い分を伝えるなど、事件当事者の人権に配慮しながら、犯罪事実を解明するための一層の努力を望みたい。


この事件も示談後起訴猶予で不起訴処分された事件だ。
結局私的に解決した事件である。この事件に公共性、公益性があるのだろうか。それを認めるのなら、検察は立件すべきだっただろう。
被疑事実は闇に葬られたのだ。そして、この事件は「無罪」である。
この事件の告発者は事件が公的に扱われるのを避け、告訴を取り下げたのだ。


事件当事者の人権に配慮しているとはとても言えない。報道機関は10年以上前から何ら変わっていないのである。