子を捨てる場所

 熊本の慈恵病院に設置運用されてから二年たった「こうのとりのゆりかご」からその運用状況が公表された。
こうのとりのゆりかご」とは所謂「赤ちゃんポスト」のことだ。
2008年度「ゆりかご」に預けられた子どもは25人である。
厚労省は全国の「棄児」が二〇〇八年度に四十九人だったと発表した。これには「ゆりかご」に預けられた子どもは25人も含まれている。

 厚労省の「棄児」の定義は親が不明のまま、路上や病院の玄関先などに遺棄された子どもである。遺棄致死のケースは除かれている。「ゆりかご」に預けるケースも「棄児」すなわち「捨て子」扱いにされているのだが、これには疑問が残る。
こうのとりのゆりかご」は匿名でも安全に子供を預かることを目的として運用されているからである。路上や病院の玄関先に一方的に放置していった「棄児」と同一視すべきではないと思う。
後者は場合によって刑法217条遺棄罪あるいは刑法218条保護責任者遺棄罪を適用される犯罪なのだ。

 「ゆりかご」をめぐっては「捨て子の助長につながる」との批判があり、匿名で安全に預けられるが故、そのことが安易な遺棄につながっていないかと懸念する人も多い。しかし、それを検証するデータが少ないというのが現状である。
 



内訳をみて注目したいことは
・全て熊本県外からの預け入れであり、父母の居住地は近畿、中部、関東など九州よりも本州の方が多い。全国から預けられる事態が続いている。
・匿名で預けたが結果的に出自不明な子どもは3人しかいない。
・預けに来た人36件(不明は除く)、預けられた子ども25人。つまり複数で預けに来ている例がある。

「ゆりかご」利用した者たちは単に子どもを手放したいのではないかと思う。しかし、殺したくはないのだ。だからこそ、遠く熊本まで出向くのである。


 今回、厚生労働省は過去三年分をさかのぼって親が不明のまま遺棄された全国の棄児数を集計している。
〇六年度二十七人、〇七年度五十五人、〇八年度四十九人と「ゆりかご」が運用開始された〇七年度に大きく増えている。三年間の集計で棄児数の統計的推移ができるものではないが、これだけで「ゆりかご」開設が全国の総数を一気に押し上げたとする論評が出ている。
「ゆりかご」に関わる報道が子どもを遺棄する動機になっている可能性はある、報道によって模倣犯が出る傾向と同じことだ。〇七年度五十五人のうち「ゆりかご」に預けられたのは17人であり。38人が前年度と同じ条件で遺棄された子どもである。11人増加したことになる。同じ条件で〇八年度は24人、〇六年度よりも減少している。
〇七年度に「赤ちゃんポスト」報道を盛んにしたことが遺棄の動機になったとうかがえる数字ではないだろうか。
いずれにしても、「ゆりかご」が「子どもを遺棄することの助長につながる」という結論を出すには早すぎるのである。

 舛添要一厚労相は二十六日の閣議後会見で、慈恵病院(熊本市島崎)の「こうのとりのゆりかご」の利用状況に言及。今後の在り方について「行政ではなく国民的な議論が必要」と述べ、現時点で国として関与する考えがないことを示した。
 「ゆりかご」には開設以来、全国から子どもを預ける状態が続いている。舛添厚労相は「失われないですんだ命があった」と評価する一方、「安易な子捨てにつながっては困る」と強調。「両面を見て、国民的によく議論する必要がある」と話した。
 国の積極的な関与を求める声に対しては「厚労大臣が『全国に広めよう』というたぐいの話ではない。臓器移植法のように国会で議論をすればいい」と述べた。(楠本佳奈子 熊本日日新聞 2009年05月26日)


 全体に少ない数ではあるが、全国的に必要とされていることはわかる。実数としては児童相談所などに子どもを預けるケースが圧倒的である。しかし、役所では敷居が高いと感じ、育児が困難な状況で思い悩んでいる親にとって無条件に預けられる施設があることは子どもにとっても利益があるだろう。
 きちんと育てられない子どもは発達障害が生じ、社会に適応することが困難になる場合が多い。里親をしている人はなるべく早い時期に適切な環境で育てることが大切だという。里親として子どもを預かる条件も乳幼児であることという場合も多い。中途半端に育てられた子どもより赤ん坊のほうが育てやすいというのだ。このため、里親登録していても子供を預かっていないことは相当数出てくるのである。

 
 子どもの利益を第一に考えるならば、育児困難な環境に引きとどめているより、なるべく早い段階で安全で適切な環境に移すことが大事である。


「無条件で子どもを預けられる」
 
 安易に子どもを捨てる場所があることがあることが大事なのだ。育てられない親に子どもを捨てろと働きかけたい。 こういう施設を少なくとも大都市圏にひとつは置くべきだろう。児童虐待するバカ親も、気軽に利用できる施設があれば殴り殺す前に預ける可能性はある。